映画感想置き場(仮称)_カマンベール太郎

やってみます。感想置き場とか書いておきながらよくある文章力の低いブログです。

アリスとテレスのまぼろし工場【タイトルからは伝わらない心締め付けられるドロドロラブストーリー】

maboroshi.movie

 

『あの花』でおなじみの脚本家、岡田麿里監督作品の第2弾にして、アニメ制作会社MAPPA初のオリジナル劇場長編アニメーション作品。

 

巨大製鉄工場のある町『見伏』。

ある時、製鉄所で大爆発が起こり街に異変が起きる。

町の外に出る術は全て塞がれ、住人たちは爆発が起きたその時代に、そのままの姿で取り残されてしまったのだ。

住人たちは時代が元に戻る(現実の時間の流れに戻った時)の為に『変化』を禁じられ、何年もの間止まった時代の中で何の変化も起こさないよう生活を送っていた。

 

主人公の正宗はそんな変化できない世界に嫌気を感じながら14歳の少年として生活してていたが、ある時同級生の睦美に目を付けられる。彼女に事故のあった製鉄所につれられるが、そこで工場内に隔離されている睦美にそっくり少女 五実と出会う。

睦美はいつもここで独り五実を育てているといい、正宗は睦美に、五実の身の回りの世話を手伝うよう強要される。

正宗は見た目に対して言葉がおぼつかない五実に疑問を抱えながらも、断れないまま彼女の面倒を見る事になる。

 

ある時、正宗は同級生たちと肝試しをするが、ペアとなった同級生女子に告白される。

あることをきっかけに彼女の内心に変化が起き、正宗に好意を感じてしまったという彼女。

禁じられた『変化』を犯してしまった彼女。正宗に思いを伝えたその直後、異変が起こる。

これをきっかけに『変化』が禁じられている真の理由、そしてこの町の住人たち自身が気づいていない自身の秘密が明かされる。

 

今作のテーマ『変化』ですが、夢の変化だとか物事の考えの変化だとかいろいろひっくるめた心情的なものを差し、今作は特に恋愛的な変化がメインとなっています(いっぽう外観的な変化は起きないので、主人公は14歳の姿でずっと生活している)。

上記の通り主人公は14歳の思春期の少年で、これから文字通り恋愛としての恋愛を知る年代です。

変化を禁じられた彼は無意識的にその思いに向き合おうとしせず、そんな中あることをきっかけに人を好きになる感情や苦しみを知り、感情的に動いてしまうのです。

 

 

 

 

時間が止まった、変化が許されないという制約の中、止められない恋愛感情の描写が生々しく描かれていました。

特に今作で強調されるのは『心の痛み』です。劇中いくつかのキャラクターがその痛みを抱えるのですが、人物それぞれの痛みのとらえ方とか、それにどう向き合うかとかが丁寧に描写されています。

もちろん正宗・睦美・五実たちが抱える痛みがメインになるのですが、その痛みが苦しこと苦しいこと。14歳のまま少なくとも20年経っている上、変化が禁止されているゆえに恋愛を知らないで生きてきた主人公が、突如人を好きになるという感情の概念に向き合い、それがいったいどういうモノなのかを理解できない事に苦しむ姿はじれったいとかその域を超えて苦しさ、悲しさ、気持ち悪さとかそういう感じでした。これがずーーーーーーーっと続きます。海外のティーンエイジャーの性に対する葛藤を描くインディーズ映画みたいですね。大好きです。

主人公の周りの同級生たちもなかなかおもしろいです。本筋とはあまり関係ないのですがコメディ的で軽快なものになっていて、主人公たちの対比となっているのが作品のドロドロした雰囲気を緩和できる・・・・ワケ無いです。ムリムリ、このドロドロにはどうあがいても気休め程度にしかなっていません。大好きです。

そして後半になるにつれ恋愛描写は露骨になっていき、生々しく美しいものになっていきます。美しい・・・?14歳の設定で!?美しいけどいけない気がする!!

 

心の描写が生々しくて常に締め付けられるような感情で見ていましたが、よく考えたら設定がめちゃくちゃファンタジーなので下手したら心はカヤの外みたいな感じになると思うんですが、不思議と感情移入できちゃうんですよね。

なんでこんなキャラクターを身近に感じるのかなって考えて、もしかしてコレかなってのがあるんですが、それは髪です。この映画、髪の作画が神がかっています。

予告編でも見られますが、何かしら大事なシーンには、必ずと言っていいほど髪の表現に力が入っていて、中にはこれ1つで視覚的な感情の描写をやってのけているシーンすらあります。

揺れる前髪とか、ほつれた髪のきめ細かさとか、何となくにおいとか風とか感じるくらいにリアルです。

メインヒロインの睦美と五実はもちろん、髪の長い主人公の正宗にもそういったシーンがあります。例の生々しさと美しさ・・・が頂点に達するシーンがかなり刺激的です。『ふたり』の長い髪がいい感じに隠れて・・・・こう・・・・・ね・・・・・。いやらしい意味じゃなくて、ほんとに美しいって意味です(確かに見てて結構気まずくなりますが)。

 

そして今作、睦美役を演じる声優、五実を演じる声2人の声の演技が凄いです。

まず同級生の睦美ですが、ミステリアスなキャラクターとして登場し、そのミステリアスさに満ちあふれた声で主人公をからかうような素振りで話す序盤から次第に素性が明らかになり、どんどん声質が柔和になっていきます。

前半と後半でキャラの印象ががらりと変わるタイプでブレやすそうなキャラクターですが、声の演技と素の感情があらわになっていくキャラクターのスピードがピッタリシンクロしていました。

時折普通の女の子の喋り方になってしまったり、予告編で聞けるブチギレなんかもそのキャラクターの良さが引き出ていました。あとそのブチギレの後スンと冷静に切り替えられる所とか、正宗に対してコイツめっちゃ腹立つけどもうどうしようもないから受け流すしかないわって感じで女性が描く女性って感じで良かったし、それに全く気付いてなさそうな正宗がおもしろかったです。

 

そして五実。予告編でも声は聞けますが、まさに子供という感じ。

とはいっても声が高いだけでしょって思いますよね。僕も予告編を見た時はそう思っていて、そのあたりが唯一の不安点でした。

そんな心配はご無用でした。

大人が子供の声を出している感じじゃなくて、声の大きさだとかイントネーションをうまくコントロールできない、子供特有の話し方そのもの。

ほんとに子供の声なんじゃないかって程でした。

中盤に声がひっくり返るくらいの大声を上げるシーンは中の人が心配になる程のマジな大声でめちゃくちゃ怖かったです(メタ的な意味です、シーン的には明るくハッピーです)。

五実の声は登場するシーンから最後まで、よくある声優の子供っぽい演技のソレから逸脱しているので、どちらかというと実写的に感じました。

アニメのキャラクターというより、アニメの世界の迷い込んでしまった現実の子供みたいな。

そしてコレが今作後半の展開に結び付くとは思いませんでしたよ。はい。この辺りは見てのお楽しみです。

 

今作、タイトルに『アリスとテレス』とありますが、作中にアリスもテレスも登場しません。

多分ですが、哲学者のアリストテレスの『ト』を接続詞にしたもの、そしてアリス・テレスとはメインヒロインの睦美と五実の事なのでしょう。

作中垣間見える哲学的な雰囲気とかけているのもあるかも。どうやらアレストテレスの小ネタも挟まれていたみたいですしね。

その辺のことは全然わからなかったので、個人的にはちょっとフワフワした感じでした。

 

フワフワしているといえば、今作の設定もだいぶフワフワしています。

なぜ町が封鎖されてしまったかという理由とか、煙の出所(誰が作ったか的な意味)とか、ファンタジー要素の解説はあくまでも推測で進みます。なにせ『閉鎖した側』のキャラクターが登場しないので。

今作で監督を務めた岡田麿里脚本作品の『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない』とか『空の青さを知る人よ』に近い感じですね。このフワフワした感じに違和感が無いといえばウソですが、逆にそういう説明シーンの無さ、説教臭さの無さがこの人の脚本の良さだと思います。細かい事について見る人に想像の余地を与えてくれるのは大好物です。

そんなこと言いながら僕自身この人の脚本作はさっき書いた2作しか見てないんですけどね。ここさけも見てないんですよ僕。よくもまあこんな偉そうな事書けますね。

 

 

今作、タイトルからして子供向け映画に見えますが、その正体は10代の子供たちを主人公としたドロドロラブストーリーです。描写的に子供向けとは言い難く、どっちかというと主人公と同年代の少年少女をこういう『心を締め付けられる系』の沼に引きずり込むタイプの映画です。

家族や知人と見に行くより、ひとりでじっくり見るのがいいかも。

 

常に心を締め付けるようなストーリーに、きめ細かな髪や声の表現。10代という設定の中でここまで露骨にドロドロした恋愛描写ができるのはアニメ映画だからこそですね。

それも今作はセクシャル的な意図は一切伝わらず、むしろ美しいとすら感じるほどでした。

とてもおもしろかったです。

 

 

今作の予告編に五実の「大嫌い」というセリフが流れるのですが、このセリフを発するタイミングがいつかっていうのも楽しみに見てほしいです。

 

 

それと前のほうの席に子供連れの親子がいたけど、この映画がどういう感情で見てたんだろうかすごく心配でした。・・・・もしかしてプリキュアと間違えました?

 

 

 

 

このジャケットの

 

心し

音 ん

   お

    ん

中 島 み ゆ き

 

ってめっちゃかっこいいですよね


岡田麿里監督作品第一弾


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